福岡の “いま” を伝える情報コラム <福岡2020レポート> 。
今回は「鉄道会社がギフト通販を通して伝える 地域の魅力と一体感」と題して、九州旅客鉄道株式会社(JR九州)事業開発本部 サービス事業部の部長・髙橋晶さんへのインタビューをお届けします。
――「鉄道会社」と「ギフト通販」という結びつきが意外だったのですが、御社がギフト通販事業を手がけるようになった経緯について教えていただけますか?
はじめに、当社の事業体制について簡単にご説明しますと、大きく分けて鉄道事業とそれ以外の事業に分類され、前者を鉄道事業本部、後者を事業開発本部という部門が担っています。
私が所属するサービス事業部は、ホテル開発部、住宅開発部、カード事業部などとともに事業開発本部に属し、自動車保険・損害保険などの団体保険商品やお中元・お歳暮向けのギフト商品を、主として社員向けに販売する部署です。
いわゆる「ギフトカタログ」を使った販売は30年ほど前から行っていたのですが、2年ほど前から、取り扱う商品やカタログデザインの見直し、インターネット販売の強化を進め、社員だけでなく一般のお客様にも広く販売できる環境を整えてきました。
――カタログを拝見すると、九州各地のこだわりの品々があふれていて、とても興味を惹かれる内容になっていますね。
以前は、毎号同じようなラインナップが並んでいて、例えば、お肉のページのトップに松坂牛が大きく掲載され、加工品のページには全国的に有名なメーカーの定番商品がずらっと並んでいるような、ごくごく普通のギフトカタログでした。
とはいえ、当社の社員には、そのカタログから商品を選んで購入する習慣ができており、安定的な売上が維持できた時代が続きました。
そうしたなか、お中元やお歳暮を贈答する家庭が減る一方で、ギフト通販の商品がより多彩になるとともに、インターネットの普及に伴って商品を購入する手段の多様化が進みました。
まさにギフト業界においても「お客様から選ばれる時代」の到来を迎え、必然的に、当社のギフト商品の売上は減少。事業運営の岐路に立たされることになります。
そこで2018年から着手したのが、「九州のいいもの、美味しいもの」をセレクトした企画の立ち上げとカタログデザイン・構成の見直しでした。
「実際に手に取り、味わったときの満足感をお客様に伝えること」を念頭に置き、自社スタッフが九州各地の産地を訪れて、生産者と話し、生産の現場を見て、商品を見極め、さらにはオリジナル商品の提案・開発にも取り組みました。
――スタッフ自ら現地に足を運ぶという、徹底した「現場主義」ですね。
私自身、駅構内のキオスクやお土産物のセレクトショップ「銘品蔵」の運営を担当していたことがあり、商品のセールスポイントをどのようにお客様に伝えたらよいかを自分で考えて動くことの重要性や、自分が購入者になった気持ちになって楽しみながら企画・販売に携わる大切さを肌身で感じてきました。
また、クルーズトレイン「ななつ星in九州」の企画担当として九州各地の魅力的な地域や商品をマーケティングしてきたメンバー、飲食店やお酒の知識に富んだメンバーなど、豊富な経験と個性あふれるスタッフを参画させることで、企画が次々と生まれていきました。
――そうした取組の成果がこのカタログに詰まっているのですね。
2019年夏号からは、そのようにして収集した情報を活かして、九州の美味しいものや魅力的な地域、こだわりの生産者の皆さんを紹介する『人・土・ごちそう』というカタログを別冊として制作し、Instagramのサイトも立ちあげました。
また、『九州セレクト!美酒×美食~九州のこだわりが生んだ珠玉のお酒とグルメのマリアージュ~』と題して、スタッフが選び抜いた九州各地のお酒とおつまみをセット販売する企画も展開し、毎号ご好評をいただいています。
そして、2019年冬号からは、ECサイト(electronic commerce site/インターネット上で商品を販売するウェブサイト)をリニューアルし、一般のお客さまに向けたネット通販を本格的に開始しました。
いま手に取っていただいている2020年夏号のカタログの構成は、九州の美味しいものを集めた『九州マルシェ』が2/3、『人気の定番商品』が1/3となっており、表紙には「九州の元気をお届けします!」というキャッチコピーを入れ、別冊だった『人・土・ごちそう』も巻末に配置して、裏表紙から特集ページが始まる形の「W表紙」の冊子として構成しました。
――鉄道部門と連携した企画も盛りだくさんですね。
当社のギフトカタログのなかで、リニューアル以前から人気があったのが、駅長や客室乗務員おすすめの商品を紹介するページでした。いわば「駅長おすすめ」シリーズのギフト版ですね。
今回の2020年夏号では、「鉄道会社のギフト通販」としての利点を活かして、8月8日の豊肥本線全線開通にあわせて『人・土・ごちそう』の特集エリアとして「阿蘇」を取り上げ、2020年秋から運行を予定しているグリーン個室・ビュッフェ・マルチカーを連結した特別列車『36ぷらす3』(=39 サンキュー!)にちなんだ「駅長・客室乗務員が選ぶ “感謝” の一品」を紹介するページを企画するな
ど、工夫をこらしています。
鉄道事業本部の社員からの反響も大きく、九州各地の美味しいもの情報を提供してくれたり、今後のコラボ企画の提案があったりと、新しい形での社内交流が生まれています。
――素晴らしい連携が実現されていますね。それでは最後に、今後に向けての目標や豊富をお聞かせいただけますか?
先ほどご紹介した新しいD&S列車『36ぷらす3』のネーミングには、世界で36番目に大きい島である九州全県を巡るこの列車で、驚き・感動・幸せをお届けし、「お客さま、地域の皆さま、私たち」で一つになって、「39(サンキュー!)=感謝」の輪を広げていきたい!という思いが込められています。
私たちが手がけているギフト事業においても、九州各地の名品・逸品のセレクトショップとしての機能を高め、一つ一つの商品の素晴らしさはもとより、そうした “九州はひとつ” という一体感をお客様にご提供できたら大変嬉しく思います。
――これからの展開が楽しみです。本日は、ありがとうございました。
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[取材・編集] 西山健太郎(福岡観光コンベンションビューロー マーケティングマネージャー)
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